第3話:新商品、爆誕(物理)
アレンが通い始めて三日目。
ドアがバンッと勢いよく開く。
「浅漬けはどこだぁぁぁ!!」
「もっと静かに入ってきて!?」
アレンは今日もキラキラした目で浅漬けコーナーに直行しかけたが、
急に立ち止まって、くるりとこちらを向いた。
「実は……王様に言われたんだ。
『お前、その緑色の棒ばっか食うのやめろ』って」
「正しいぞ王様!」
「だから今日は、新しい食物とやらに挑戦したいっ!」
力強い宣言ではあるが、なぜそんなに鼻息が荒いのか。
私は商品棚を見渡す。
昨日、入荷された謎の商品が目に入った。
「これ。おにぎり」
「鬼?鬼の肉だと!?」
「ちがう!海苔!これは食べられる紙!」
「紙を食べる文明…恐るべし…」
アレンは警戒しながらも、ぱくっとひと口。
そして次の瞬間、
「なにこれっ!うまっ!!えっ!?なんで!?」
「味がするからだよ」
「米……これが米か!魔物の卵の味がする!」
「全然違う!」
そんな漫才をしていた時だった。
ドスン……ドスン……と地面が揺れる。
外を見ると、
スライム(昨日の10倍デカい)
オーク(ムキムキで斧持ってる)
コウモリ(目が血走ってる)
の三体が店の前で小刻みに震えていた。
いや威嚇してた。
「アレンー!きゅうり返せー!」
「だから浅漬け狙い!?」
「昨日の塩攻撃、許さん!!」
「食卓かよ戦場は!」
アレンは剣を構える。
おにぎりを咥えたまま。
「俺はもう浅漬けばっかじゃねぇ!
タンパク質の力を思い知れ!!」
オークが突っ込んでくる。
アレン、剣で受け止めるが—
「強っっっい!?」
「そりゃ向こうも筋肉むきむきだよ!」
私、咄嗟に棚を見て叫んだ。
「これだ!!アレン!!受け取って!」
私は商品を次々に投げる。
焼き鳥 → アレン、空中キャッチ&一瞬で咀嚼
「高タンパクパンチ!!」→ オーク吹っ飛ぶ
唐揚げ → アレン、豪快にかじる
「フライドドロップキック!!」→ コウモリ撃沈
「まどか!次っ!」
「ソーセージパン!」
「俺はウインナーの化身だぁぁぁ!!」
意味不明な名言とともにスライムに突撃。
しかしスライムはぷにぷにで跳ね返され、アレンは店の壁に直撃。
「ぐはぁぁぁ…!柔らかいのに硬いってどゆこと!?」
「アレンさん!スライムにはやっぱり塩!!」
私は塩を思いっきり投げ渡す。
アレン、奇跡の左手キャッチ。
「いっけえええぇぇぇ!!」
塩まき散らしながら回転するアレン。
スライムは慌ててしぼんで小さな水風船みたいに。
そのまま逃走。
3体全員、撤退。
戦場は平和になり、
店の前には食べ残しが転がっている。
「ふぅ……俺、また強くなった気がする」
「いやたぶん体重が増えただけ」
アレンが笑って、咥えてたおにぎりを一口かじる。
そして、少し照れくさそうに私へ差し出した。
「まどかも、どう?
その……俺が初めて食べたおにぎり……一緒に」
一瞬だけ世界が静かになる。
風鈴の音だけが響いた。
「……うん。いただきます」
私がかじると、アレンの顔が少し赤くなった。
(なにこの、青春のイベント……)
そして、アレンがぽつり。
「……まどかのおすすめ、他にも教えてくれよな。
俺、また来るから」
ちょっと、心が跳ねた。
(また来る…って言った)
「はい。お待ちしてます。勇者見習いさん」
アレンはいつもの笑顔を見せて、手を振り走り去った。
風鈴がチリンと鳴った。
今日もまた、胸が少しだけあったかい。
異世界コンビニに、
またひとつ甘くて笑える日が訪れた。
◆次回予告
アレンの恋のライバル現る!?
魔法も使えて頭もいい、イケメン魔法使いが来店。
まどか、モテ期到来(?)


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